もしも微生物が、肉眼でも見える存在だったら、私たちが眺めている地球上の風景は一変してしまうに違いありません。この地球上には無数の微生物が暮らし、生命の循環でなくてはならない役割を果たしています。それはまた、私たちの体の中でも同じこと。“ビオスマイル”さんが、人と微生物の関係をシリーズで紹介します。
大自然を支える微生物
微生物とは、その名の通り肉眼ではほとんど見えず、顕微鏡などを使って初めて見える生物のこと。私たちが存在している地球上の大地、大海原や河川などいたるところに、それぞれの環境に適合して生き抜いてきた微生物が暮らしています。
カビや酵母などの菌類からはじまり、ゾウリムシなどの原生動物、光合成を行う藻類、細菌やさらに小さいウイルスまでその仲間も実にさまざまです。
彼らの中には古くから人々の暮らしで利用されてきたものもいます。長期保存を可能にした味噌や醤油、アルコールなどの発酵食品はもちろんのこと、水の排水処理にも彼らの能力が利用されています。一方で病原性微生物も多く存在し、これまで何度も人類を滅ぼしかねないほどの脅威となってきたことも事実です。
小さな小さな微生物は、“一次生産者”
たとえば海の水をビーカーにためておくと、無数の植物プランクトンが繁殖します。肉眼では見えないのでその存在を忘れがちですが、実はこの微生物がいなければ、動植物は絶えてしまうほど重要な役目を担っています。
彼らは海洋中の有機物を利用し、光合成することで新たな有機物と酸素を生みだします。これを動物プランクトンが食べ、それをまた魚などの動物が食べる…、といった食物連鎖が成りたっています。
近年、彼らよりもっと小さな微生物がこの食物連鎖に関わっているともいわれています。また、彼らがつくった酸素は、地上で生活する私たち人間の生命をも支えているのです。
このように微生物は、生物循環の出発点、つまり「一次生産者」の役割も果たしているのです。
人のお腹の微生物
さて、身近な微生物として今ではもうおなじみの腸内細菌。ブームといってよいほど注目をあびていますね。機能性表示食品としてももてはやされ、スーパーの一角にヨーグルトなどのプロバイオティクス*1食品のコーナーが設けられているのを見かけることもあります。
これらの腸内細菌は、小腸から大腸にかけて、びっしりとすき間なく、それぞれ種類ごとに群れをなして棲んでいます。その様子は、まるでお花畑のようなイメージなので、「腸内細菌叢(草むら)=腸内フローラ」と呼ばれています。
腸内細菌にとっては、宿主である人間が食べる食物がえさになります。えさを食べて、分解と生成を行ない、有益・有害なさまざまな物質を日々つくりだします。健康には、腸内の微生物をうまくコントロールすることが重要だといわれています。
腸内細菌は、500~1000種、100兆個にも及ぶといわれ、そのミクロの宇宙空間はまだまだ未知の世界です。
また、腸内フローラはしばしば善玉菌・悪玉菌・日和見菌と分類されますが、これは腸内細菌を、その性質や特徴にもとづいてわかりやすく分類した総称です。
この命名は、元東大名誉教授 光岡知足氏によるものだそうです。
光岡先生は、永年にわたる緻密な研究努力により、現代の腸内細菌学の礎を築きあげてこられました。
先生の数々の研究資料には、とても興味深い事例が多々あり、そこから健やかな毎日を過せるヒントが見いだせるのではと思います。次回からは光岡先生の研究の数々を取り上げてみたいと思います。
この地球の環境は、目には見えない小さな微生物を基にしてバランスが保たれています。そればかりでなく、私たちの体の中にも無数の微生物がいて、生命の存続を左右する重要な使命を果たしています。このような底知れぬパワーの持ち主、微生物にますます関心が深まるばかりです。
*1: probiotics 腸内フローラ(腸内細菌叢)のバランスを整え、人の身体に有益な働きをしてくれる生きた微生物のこと。 antibiotics(抗生物質)に対義語として生まれた言葉。